山口佳子 ソプラノ歌手

私のオペラとの衝撃の出会いは中学生の時。
父がヨーロッパ出張の土産にGrammophoneのオペラアリア集CDを買ってきた。その中で”椿姫”のアリアがあった。心がザワザワして、何度も何度も聞いた。イタリア語など全然わからなかったけれど、それこそ何度も何度も耳で聞いて真似して口ずさんだ。
どうしてあんなに心がゆさぶられたのか。恋の歌ということさえもわからなかったのに。
鼻歌でオペラの中学生時代。
あれから20年。

イタリアに渡り生活をはじめて、何十回もオペラを聞いた。安い席を並んでとった。有名な歌手も無名の歌手も、関係なかった。ただ聞きたかった。自分で求めたわけではなけれど、自然と友人も音楽関係が増えた。美術関係のパーティの場でも、何故だかスカラのオーケストラのメンバーと友情を結び、何度かスカラ座のリハーサルに呼んでもらったりもした。

幾度となく、作品づくりに行き詰まった時に心をほぐしてもらった。

山口佳子ともたまたまミラノで、同居した。
今日は彼女が主役を演じた椿姫を文京区シビックホールの大ホールで聞いた。
すばらしかった。久し振りにオペラで泣けた。
鼻歌時代の中学生は1幕の華やかなアリアが好きだった。
意味もわからず音が好きだった。今でも大好きだ。
けれど、今日は2幕の切なさに胸が締め付けられた。愛情の複雑さと身を切るような想いが伝わってきた。歌を超えた感情の波が心をゆさぶる。

オペラにはその数時間に人生が詰まっている。単純な恋だの愛だののストーリーの中に複雑な感情が隠れている。歌手の力量で、ストーリーは深くも浅くもなるのだなぁ。
オペラは大人の娯楽だ。それがようやく解ってきた気がする。大人の階段を知らない間に登っているのだと気づく。

山口佳子、素晴らしい歌い手だ。